我が家のうさぎ「なのはっち」が3歳4ヶ月のとき、斜頸になりました。なのはっちのお世話をするために斜頸の原因、治療、家庭でのケアについて、いろい学んだことを詳しく解説します。症状が安定するまで病院通いをした記録や、斜頸のまま生涯を閉じた11歳4ヶ月までの家でのケアについても公開しています。
斜頸とは?
「斜頸」とは首が傾いていることをいい、病名ではありません。また、斜頸はうさぎ特有の現象ではなく、犬、ネコ、人間にも起こります。斜頸は、ざっくり表現すると平衡感覚をつかさどる「前庭」という器官に問題があるために起きるといわれています。原因については後で詳しく説明します。
まず、前庭とはいったい何でしょう。平衡感覚をつかさどると書きましたが、有名な「三半規管」という言葉を聞いたことある方は多いのではないでしょうか。
耳には鼓膜がありますが、鼓膜の内側には中耳と呼ばれる部分があります。その奥に内耳と呼ばれる部分がありますが、前庭は内耳にあります。内耳は三半規管と蝸牛、そしてその間に位置する前庭といわれる部分からなっています。下にラフな絵があります。
引用元:前庭 | ウィキペディア(2024年7月24日参照)
ラフな絵のほうが説明するとわかりやすいと思います。絵の左側に3本の管みたいなものがあります。ここが三半規管。そして右側には渦巻状のものがあります。カタツムリみたいなので蝸牛と呼ばれています。そして両者の間が前庭と呼ばれています。次はちょっと詳しい絵を見て、前庭の中の構造を見てみましょう。
引用元:前庭 | ウィキペディア(2024年7月24日参照)
上の図を見るとわかると思いますが、前庭には卵形嚢(のう)と球形嚢があり、これらはそれぞれ水平運動と垂直運動を感知する働きをします。三半規管は回転運動を感知します。前庭と三半規管は平衡感覚を感じ取る器官というわけです。うさぎの斜頸・眼振・ローリングに関わっているのは、前庭といわれています。これに対し、蝸牛は聴覚に関わる器官です。
前庭での平衡感覚機能が正常に働かなくなると、眼振・ローリングが起こります。そして首が常に傾いた状態になります。これを斜頸と呼びます。
斜頸の症状と初期の対処方法
なのはっちが斜頸になったのは、2007年。3歳4ヶ月だったとき、突然身体がふらつき始め、激しいローリングが始まりました。ローリングとは、身体が倒れて床にゴロゴロと転がることをいいます。ちょうど4ヶ月前に子宮内膜症の手術を終え、順調に回復して一安心していた矢先の出来事でした。
一般的に初期の症状は、床に倒れてそのまま横にゴロゴロと転がり、眼振(がんしん)が見られます。眼振とは、本人の意思とは無関係に眼球が左右にまたは上下に揺れ動くことをいいます。眼球の動くスピードは、かなり速いです。
私自身も眼振の経験がありますが、激しいめまいが起きたときに同時に眼振が起きます。その時はどちらが上か下かわからないぐらいの激しいめまいのため、立つことができません。おそらくうさぎもそんな状態で、床をゴロゴロ転がるのだと思います。
私の経験では、眼振は自分では動かせないほどの速さで眼球が左右に動き、目を開けているのが怖いほど。目を閉じてもグルグル周っている感覚は消えません。
ローリングが始まる直前の様子
なのはっちが初めてローリングする瞬間を見ましたが、その少し前から明らかに様子がおかしかったです。目を見開き、驚いたような表情、かろうじて立っていると感じるような脚のふらつき。やや身体も低姿勢だったような気がします。何かおかしいと思って見ていたときに、ローリングが始まりました。腹ばいの状態から、一気にグルンと1回転で、また腹ばい状態。するとすぐにまた1回転。回転はとても速かったです。
ローリングのときの動画は撮っていません。私はうさぎ飼育書やうさぎ雑誌で斜頸のことを知り、ローリングとはどんなものか、文章で読んで知っていました。実際にローリングを見なくても、それとわかるほど異常な動きなので、ローリングの動画を見なくてもわかると思います。YouTubeで「うさぎ ローリング」などというキーワードで検索すると、動画を見ることもできます。
ローリングが始まったときの対処方法
まずは安全確保
うさぎのローリングが始まったとき、うさぎはパニックに陥っています。飼い主がまず最初にすることは、うさぎの身体を守ることです。自分の意思とは関係なく回ってしまうので、ケージ内のあちこちにぶつかり、怪我をする可能性が非常に高いからです。
運よくその瞬間に家にいたならば、うさぎを抱っこしたり、周りを柔らかなクッション性のあるもので覆った、小さな空間の中に入れてあげてください。この間は当然、お水を飲んだり食べ物を口にすることはできませんので、水などの容器類はうさぎの傍に置く必要はありません。ローリングの際にぶつけて目などを怪我する可能性のある容器類、おもちゃなどは置かないようにしましょう。
できるだけ早く受診
その次にすべきことは、獣医師に見てもらうことです。初めてローリングが始まったときから、投薬などの処置が早ければ早いほど、回復の可能性が期待できるそうです。そのため、うさぎがローリングをし始めたときが何時であっても、今うさぎを診てくれる動物病院を探す努力をしてください。通常の診察時間外のときは、かかりつけでなくてもいいと思います。とにかくすぐに診てもらうようにしましょう。
もしも次の日まで診察をしてもらえる病院がない場合は、それまでの間、うさぎがローリングしても怪我をしないような処置をとり、こまめに水分補給をしましょう。できれば食事も摂らせたいですが、こうなってしまったうさぎは、まず自力では食べません。ペレットを口元に持っていっても食べないときは、強制給餌しかありません。斜頸そのもので命を亡くすことはないそうですが、斜頸で食べることができなくなり、命を落とすうさぎがいるということを忘れないでください。矯正給餌の方法は、下記リンク記事を見てください。
斜頸の原因
斜頸になる原因はいくつもあり、上手くまとめられた英語のサイトがあったので、そちらを参考にしながら解説していきます。
CAUSES OF TORTICOLLIS :
- middle- or inner-ear infection
- parasitic infection by Encephalitozoon cuniculi in the CNS
- parasitic infestation by the nematode (roundworm), Baylisascaris procyonis
- stroke
- abscess or tumor in the brain (i.e., intracranial abscess)
- head trauma
引用元:Head Tilt in Rabbits: Don’t Give Up | Rabbit.Org Foundation(2024年7月24日参照)
以下、日本語訳です。
斜頸の原因
- 中耳・内耳の感染
- 中枢神経系におけるエンセファリトゾーン・クニクリによる寄生虫感染
- アライグマ回虫(Baylisascaris procyoni )による寄生虫感染
- 脳卒中
- 脳内の膿瘍または腫瘍(頭蓋内膿瘍)
- 頭部の外傷
以下、引用元のサイトHead Tilt in Rabbits: Don’t Give Up | Rabbit.Org Foundationを参照しつつ、順に解説していきます。なお、参照サイトのすべてを翻訳しているわけではありません。必要な部分を翻訳し、さらに必要と思われる情報は、私がわかる範囲で補足しています。
中耳・内耳の感染
外耳の感染から次第に中耳・内耳への感染の広がりや、上気道感染、鼻腔や血流からの感染が考えられます。感染部位から見つかった細菌の種類は以下の通りです。
ブドウ球菌、緑膿菌、パスツレラ、気管支敗血症菌、プロテウス・ミラビリス、表皮ブドウ球菌、バクテロイデス属、大腸菌。これらは特殊な場所にいる細菌ではなく、普通に生活している環境の中に存在しています。
細菌感染によるものであれば、通常は抗生剤を投与・服用することにより改善します。抗生剤での効果を期待するには、できるだけ速やかに動物病院へ行くことが肝心です。処置が早ければ早いほど、抗生剤の効果が期待できるということでしょう。
参考サイトには抗生剤の種類や、効きが悪いときの手段まで書いていましたが、私たちは信頼する獣医師の判断に任せるしかなく、インターネットであまりにも専門的な情報を流しても意味がないと思い、翻訳しませんでした。
どうしても知りたい方は、“Head Tilt In Rabbits: Don’t Give Up”のEAR INFECTIONの項目を参照ください。
中枢神経系におけるエンセファリトゾーン・クニクリによる寄生虫感染
エンセファリトゾーン・クニクリ(Encephalitozoon cuniculi)が、本当に斜頸の原因になっているという決定的な証拠はまだありません。しかし免疫不全のうさぎに関しては、エンセファリトゾーン・クニクリが斜頸や麻痺などの神経障害を引き起こす可能性を示唆する状況証拠などはあるようです。
現在のところ、エンセファリトゾーンの確定診断は、剖検によってのみ可能とされていますが、その結果をもってしてもうさぎの症状の原因になっていたとの証明がされていないのが現状です。
血液を採取してエンセファリトゾーンの抗体検査が可能ですが、値が高いことが病気の進行を意味しているわけではありません。過去に病原体にさらされたために値が高くなっているのです。獣医師の判断で、2週間ほど間隔をあけて再検査することもあります。2回目に値が上昇していれば感染が進んでいるという解釈ができます。下がっている場合は、感染を克服したか免疫系が寄生虫に反応していないことが考えられます。
いずれにしても抗体検査では診断を下すことはできません。
アライグマ回虫(幼虫移行症)
米国ではアライグマの生息数が多いために、庭の芝生から人間に感染した例がいくつも報告されています。日本でのアライグマの生息場所は、動物園、野生、ペットショップ、家庭であり、全く可能性がないわけではないので、頭の片隅には置いておきたい知識です。
うさぎがアライグマ回虫に感染するきっかけとして考えられるのは、アライグマの糞で汚れた草やフードなどを食べることです。アライグマ回虫に感染しているアライグマの糞の中には虫卵があります。虫卵が口から身体の中に入ることによって体内で孵化し、幼虫はうさぎの脳内へ移行します。幼虫は脳内で育ちながら脳組織を破壊していきます。糞を直接口にしなくても、糞の中にある虫卵が土塵として風に舞い、口に入ることもありますので、アライグマに接するときには注意したいですね。
幼虫は腎臓や中枢神経系に移動し、命にかかわる神経障害を引き起こします。アライグマ回虫の駆除薬はいくつかあるようですが、駆除薬が有効なのは幼虫が脳に移行する前です。したがって脳に移行後は、事実上アライグマ回虫症の治療法はないといわれています。
アライグマ回虫については、上記参考サイトのほか、アライグマ回虫のガイドライン 30p-39p | 厚生労働省(2024年7月24日参照)も参考にしました。
中枢神経系への物理的損傷
4から6の項目についてです。
脳卒中、脳内の腫瘍、頭部の外傷によって斜頸になった場合、適切に治療を行った後は時間の経過とともに、機能が回復することを祈るだけです。人間の場合と同じく、緩やかに体の機能を回復していくので、数ヶ月、数年単位で回復度を見ていくことが大切です。
頭蓋内の膿瘍によることもあるようで、このケースでは歯の感染症を伴うことがあるようです。
斜頸の治療と治癒の可能性
斜頸の治療
うさぎが診れる動物病院へ行くと、以下の3方向からの治療が検討されるでしょう。
- パスツレラなどの細菌感染への対処 抗生剤
- 炎症への対処 ステロイド剤
- エンセファリトゾーン(原虫の一種)の駆除 駆除薬(駆虫薬)
血液検査の結果から、細菌感染している可能性、炎症の有無などを判断すると思います。細菌感染の場合には、抗生剤が処方されます。エンセファリトゾーンについても血液検査でわかりますが、検査機関が限られており、外注になるために結果がわかるまで日数がかかります。(2015年時点)
もしもエンセファリトゾーンであった場合、結果待ちの間にも脳の障害が進みます。一度ダメージを受けた脳組織は回復しないので、診察して可能性があると判断した段階で結果を待たずに駆除薬の投与を開始する場合もあると思います。
駆除薬はフェンベンダゾールですが、副作用は骨髄の働きを抑制するので、白血球・赤血球・血小板など骨髄で作られる血液成分が少なくなることがあります。血液検査をして経過を見ることが必要です。
ステロイド剤は、炎症を鎮める作用があるために使われます。炎症の原因は特定できなくても、現に炎症が認められたときには投薬されますので、斜頸で初診のときにはほぼ処方されるのではないかと思います。
ただ、斜頸の原因がパスツレラなどの細菌感染であった場合に、ステロイド投与で悪化する場合があるということで、使用したくないと考える獣医師もいるようです。このあたりは実際に診察に当たった獣医師の考えによるところが大きいので、不審な点、納得がいかない点があれば、そのときに説明を求めるとよいと思います。治療は飼い主と獣医師の信頼関係がとても大事ですから。
治癒の可能性
炎症や筋肉の痙攣などにより、一時的に斜頸になっている場合は、投薬と家での介護により完治する可能性があると思います。しかし脳組織が損傷された場合には再生が不可能なために、回復を期待することはできないと言われています。ただ首の傾きは残ったとしても、非常にゆっくりですがよい方向へ向かうこともありますし、うちのなのはっちのように斜頸でも次第に慣れて、普通に生活できるようになることもあります。
斜頸が原因の怪我や病気の予防も大切
気をつけたいことは、斜頸が残った場合に体の重心がずれることで、高齢になってくると足腰に不具合が現れることです。早くから対策をしておくと、足腰の弱りを遅らせることができるのではないかと思います。たとえば鍼やレーザーなどが有効ではないかと考えます。
斜頸により、正常な体位に比べて過度に体重を支えなければいけないほうの肢に特に注意してください。人間ならば関節が痛いと訴えることができますが、うさぎはできません。
しかも不調を隠す生き物ですから、飼い主でも異変に気づくのは難しいでしょう。予防的に鍼、レーザー、費用の面で苦しいのであれば、自宅でマッサージをするなどメンテナンスをしていると、老いたときの体のコンディションが違ってくるかもしれません。
私はなのはっちの斜頸を経験して、首の傾きばかりを意識していましたが、同じように首が傾くことによる体の負担にも、もっと注意を傾けるべきだったと反省しています。鍼やレーザーはお金がかかるので、マッサージはとてもおすすめだと思います。一日の終わりに、コミュニケーションと健康管理を兼ねて、まったりとマッサージをするのも良いですね。
その他、目の怪我や病気にも気をつけましょう。首の傾きが大きい場合、下側にくる目を傷めることが多くなるし、なのはっちのように逆まつげになる可能性もあります。目の炎症から細菌感染に進み、放置していると大変なことになりますので、注意してください。詳細は次の見出し「家でやるべきこと 4つ」に書きます。
家でのケア
家でやるべきこと4つ
うさぎが斜頸になったら、家でどんなことに注意しなくてはならないか、何をしなくてはならないかを、実際に斜頸だったなのはっちと暮らした経験を元にまとめました。
- 食事の介助
- 身体の保護・観察
- リハビリ・マッサージ
- グルーミング
以下、各項目ごとに説明します。
食事の介助
食欲は毎回チェックしてください。斜頸がひどいときは食欲が落ちたり、全く食べられなくなることがあるので、きちんと食べているか、お水を飲んでいるか確認します。食べる量が減っていたら、食事を介助します。口元に持っていくだけで食べてくれるときもあれば、ひと工夫すると食べてくれるときもあります。
ひと工夫の例として・・・
☆ペレットを水でふやかしてみる
☆ふやかしたペレットを食べやすい大きさに丸めて口元に持っていく
☆好きな食べ物をあげて、食欲を引き出す
☆または好きな食べ物と一緒にふやかしたペレットをあげてみる
全く食べる様子がないときは、一大事です。すぐに動物病院へ行きましょう。家では自力で食べるようになるまで、強制給餌が必要になるでしょう。強制給餌の方法は、下記リンクを参照してください。
身体の保護・観察
ケージ内の環境を整える
まず初めに気をつけたいことは、うさぎが自分の身体を安定して支えることができているか確認しましょう。足元もおぼつかなくすぐに転倒する場合には、ケージ内での事故防止のため床材や物の配置を検討してください。
自分で立てないときには、狭い空間を作って転んでもやわらかいクッション性のあるもので支えられるようにします。ケージ内側面にクッションや毛布のようなもので囲います。なのはっちの斜頸がひどいときのケージ内写真がないので図で示します。必要に応じて、お尻部分にもタオルやクッションなどを置いてみましょう。
目のケア
首の傾きが大きい場合に気をつけることは、目の炎症です。うさぎが身体を休める際に、目が床につくような場合には特に注意してください。床などで目を傷つけてしまう可能性があるからです。また目が乾燥したり、逆に涙で目の周りが濡れたりすることがあります。そのような場合には、ひどくなる前に必ず動物病院を受診しましょう。
肝心なのは病院へ行ったあとです。病院の指示通り、きちんと家で洗浄や点眼をしなければ改善しません。放置するとあっという間に悪くなってしまいますので、あきらめず根気よくケアしましょう。
なのはっちの場合は、逆まつげになりました。長年首が傾いていたせいか、まつげが眼球にくっついてしまうのです。それが刺激になり、ずっと涙が出続けていました。動物病院へ行って、定期的に逆まつげを抜いてもらっていましたが、そのうちに私は自分でなのはっちの逆まつげを抜くようになりました。引越し先の一番大きくてうさぎも診れる、近所では数少ない病院へ行っても、逆まつげの処置ができない先生がいたり、処置できても不十分な抜き方だったりしたこと、頻繁に通院することが、かえってなのはっちのストレスになることから、自宅で抜いていましたが、危険なのでおすすめはできません。
常に涙で目の周りの毛が濡れた状態になると、下の写真のように脱毛してしまうので、動物病院を受診して獣医師の指示どうりのケアを行ってください!
身体をよく観察する
一日に一度はうさぎの身体全体をチェックしましょう。食事の介護をしたり、ケージのお掃除をしたりするときがよいでしょう。ざっと身体全体を見て、汚れがないか確認します。身体の汚れは不調のサインです。うさぎはきれい好きでいつもグルーミングしています。けれども身体のどこかが悪いと、グルーミングができなくなることがあります。そういう目で、よく観察してくださいね。おかしいなと思ったら、すぐに動物病院を受診しましょう。
リハビリとマッサージ
うさぎの身体をチェックするときに、マッサージやリハビリもやってしまいましょう。いつも不自然に曲がっている身体の部位があれば、そのあたりの硬直した筋肉をさすって少しほぐしてあげましょう。障害により動かせない身体の部分を、無理のない程度に動かしてあげることは進行を遅くすると思うので、よいと思います。リハビリのようなものですね。
そのときの注意点は、うさぎは骨がもともと弱い生き物であること、その上高齢や病気などによって、さらに骨が弱くなっているかもしれないという意識で、ゆっくり丁寧に、力(ちから)加減を控えめにしてあげてください。1回にたくさんよりも、1回は短くても何度も動かしてあげるほうが効果的です。身体を触って皮膚に刺激を与えてあげることも、とても大事です。毛づくろいができなくなっている状態のうさぎは特にそうです。
普段動かせない手足などがあれば、ゆっくり優しく伸ばしたり曲げたりしてあげましょう。痛がるときはしないでください。上手くできると、うさぎはとても気持ちよさそうな表情をしてくれます。そのうちに飼い主が触ると安心・信頼して身体を預けてくれるようになるかもしれません。
うさぎの指圧・マッサージについて、詳しい本がありますので参考にしてください。うさぎにとって気持ちがいいマッサージは、飼い主にとっても癒しの時間。心の対話を楽しんでください。
うさぎのためのマッサージの本
『うさぎと暮らす ホリスティックケア 指圧&マッサージ』(Amazonリンク)
うさぎマッサージについて、今私が思うこと
私はずいぶん長い間、なのはっちのマッサージ・指圧をしてきました。その効果は確かにあったと思います。けれども今になって、もっと考えていればよかったと思うことがあるので、記しておこうと思います。
なのはっちは3歳のときに斜頸になり、それ以来首が傾いたままでした。10歳をすぎた頃、前肢で身体が支えられなくなりました。関節が堅くなり、動かしにくくなったことに加え、肢がゆがんできたのです。斜頸で身体の重心がずれていたため、片方の前肢に大きな負担がかかりすぎたのだと思われます。
こうなって初めて、体重がかかりすぎていた肢のことをもっと意識してマッサージしていればよかったと思いました。動物病院へ行くと、レーザー治療が良いといわれました。確かにレーザーは心地よいらしく、帰宅後はいつもよりも元気に歩き回っていました。けれどもなのはっちにとっては頻繁に通院することのほうが身体に負担をかけると思ったので、家でのマッサージをメインにしていました。
今思えば、斜頸になってマッサージをし始めたときから、もっと前肢のことを意識していれば肢への負担はずいぶん違ったのかもしれないなぁと。人間でも年を重ねると運動不足や身体の不調により、関節が曲がらなくなったり痛くなったりしますよね。日常的にストレッチやリハビリなどで無理なく動かすことを日課にしていれば、ずいぶん違ってくると思うのです。
グルーミング
前述の通り、身体の汚れは不調のサインです。また、うさぎが自分でグルーミングできなくなったときには、グルーミングは飼い主の役割になります。身体が汚れたままになっていると、皮膚炎などの病気の原因になります。皮膚炎になると病院へ行って細菌感染を防ぐために抗生剤を飲ませたり、消毒して薬を塗ったりと、うさぎにかかる負担は大きくなりますので、気をつけたいですね。
毎日こまめなケアをすることで、うさぎの身体を清潔に保てます。私が行っていたケアを紹介します。私はトリマーではなく、あくまでうさぎの飼育者としてのやり方ですので、不十分な点もあるかと思いますが、参考にしていただければと思います。毎日のことなので、「しっかり丁寧に」よりは、「ささっと手際よく」が継続できるポイントになると思います。介護生活は長いですからね。時間があるときに、丁寧にしてあげるとうさぎも喜ぶのではと思います。
コーミング
岡野 ONS 高級両目金櫛 中(Amazonリンク)
くしで毛をときます。全体にくしをかけますが、特にお腹側、太ももやしっぽの辺りに毛玉ができやすいので、ここは毎日とかしましょう。健康なうさぎは自分で毎日毛の手入れをしているので、いつもきれいですが、自分でグルーミングできなくなると、すぐに毛が絡まったり汚れたりします。特にお尻とふとともあたりのアンダーコート(やわらかくて細い毛で、皮膚のすぐ上に生えている毛)は丁寧にくしでとかしましょう。
ブラシよりはくしのほうが、狙ったポイントを確実にとかすことができるので、私はくしをおすすめします。力加減は控えめに。うさぎの皮膚は弱いので傷つけないように気をつけましょう。以下、ありがちな「こんなとき」に対する私の簡単なやり方を記します。
毛玉になるぐらいもつれているとき
毛のかたまりがある場合、はさみで取り除くと早いです。ただし、皮膚のきわまで切ると、間違って皮膚まで切ってしまう危険があるので、控えめに。一度にきれいに取らなくても大丈夫です。毎日少しずつ。毛玉の半分ぐらい取れたら、くしも入りやすくなります。力を入れすぎないよう、毎日少しずつきれいにしてあげましょう。
ウンチなどによる汚れがひどいとき
お湯に入れてあげられそうなら、うさぎの大きさにもよりますが洗面器などにぬるま湯を入れ、半身浴させながらおしり部分の汚れをふやかし、やわらかくなったら手で簡単に取ります。お湯を何度か変えてすすぎます。最後はタオルで水気を拭き、ドライヤーで軽く乾かします。
お湯に入れられない場合、まずはくしですぐに取れる汚れだけ取ります。次に脱脂綿などに水を含ませて汚れの部分をふやかしてから、くしでとかしながら汚れをとります。この場合、一度で完全にきれいにするのは無理なので、毎日少しずつ汚れを取ってあげてください。
耳掃除
耳の中がきれいであれば、耳掃除の必要はありません。耳の中が汚れている場合、赤ちゃん用の綿棒にオイルを少し含ませてから、やさしく拭いてあげてください。私が使っていたオイルは、「ジョンソン ベビーオイル」でした。あまり無理しないよう、見える部分だけでいいと思います。奥のほうが気になる場合には、動物病院でしてもらいましょう。
ジョンソン ベビーオイル 無香料 300mL(Amazonリンク)
爪きり
小動物用 爪切り(Amazonリンク)
寝たきりでも爪は切りましょう。伸びた爪は怪我のもとです。元気なときは、散々抵抗されて爪きりが大変だったとしても、斜頸になったり身体の具合が悪くなると、意外と楽に切れるようになります。
家でやるべきことのまとめ
今うさぎと暮らしている飼い主さんたちには、毎日の些細な、でも大切な、ちょっとしたケアを楽しんでいただきたいです。そういう些細なことの積み重ねが、うさぎの生きる喜びになっているのかもしれないと思いました。
信頼の絆で結ばれた飼い主の手で、毎日何度も体に触れてあげることで、うさぎの表情が活き活きして、皮膚もきれいになり、毛艶も良くなります。生き物だもの、無関心でいられること(放置されること)に対する反応は、人間も他の動物も同じです。
触るとちょっとした体の変化に気がついてあげられます。汚れた部分に気がついて、きれいにしてあげられます。そうすることで皮膚炎や床ずれなどに早く気がつき、対処できるので大事にいたらずに済みます。
毛づくろいができなくなったうさぎの毛づくろいをするのは飼い主です。毎日大変ですが、ここはふんばりどころです。かわいいうさぎのために。身体が不自由になっても、キラキラした目でいてもらうためにも。うさぎと飼い主の幸せのためにも。がんばりましょう。
なのはっちの斜頸 発症から3ヶ月の経過と介護記録
下の写真は、発症から3ヶ月ほどが経過した頃のなのはっちです。始めは自力では立つことができませんでしたが、3ヶ月経つころにようやく自分で立ち、歩き回れるまで回復しました。
発症から3ヶ月の通院記録です。斜頸通院の記録
発症から3ヶ月間のなのはっちの状態と、診察内容、投薬の記録を表にまとめています。上の「斜頸通院の記録」をクリックすると、別窓で治療の記録が開きます。
突然のローリングから始まった斜頸ですが、幸い在宅時にローリングが始まったので、すぐに夜間に開いている病院へ連れて行きました。始めの処置としては間違ってはいなかったと言っていたかかりつけ医の言葉を信じています。実は夜間の動物病院へ行ったとき、ローリングは落ち着いていて、自力で歩けるほどでした。診察で歩く姿を見たり、眼振の程度など一通りの診察をした後、抗菌剤とステロイドを処方されました。このときの首の傾きはそれほど強くはありませんでした。
症状は一旦安定したものの、食欲がないままでした。そうするうちにまた眼振がひどくなり、自力で立てなくなって、首の傾きもひどくなっていきました。かかりつけの動物病院では診察と投薬を続けていました。抗菌剤とステロイドを基本に、私の希望でエンセファリトゾーンの検査をし、結果が出て判断が下されるまではエンセファリトゾーンの駆虫薬も飲ませていました。検査結果はエンセファリトゾーンに感染している可能性を完全に払拭できなかったものの、可能性は低いと判断されて投薬は中止しました。
ローリングがおさまらず、やむなく鎮静剤を飲ませていた時期もありました。食欲もなく、このままでは死を待つしかないと思い、回復を信じて強制給餌を始めました。やがて自力で食べ物に口を持っていく様子が伺えるまでに回復したので、強制給餌を終了しました。自力で食べ始めると、どんどん回復して夜のケージ掃除のときに、部屋を散歩できるようになりました。上のリンク(斜頸通院の記録)は、その頃までの記録です。斜頸発症からおよそ3ヶ月間でした。
次の写真は、発症から10ヶ月ほどが経過した頃のなのはっちです。首の傾きは大きいままですが、夜のお散歩では部屋の中を自由に歩きまわれるまで回復しました。
回復後は斜頸そのものが悪化することはなく、普通に暮らせていました。しかし高齢になると、傾いた首を支える肢への負担が原因で、関節が曲がって固くなり、あまり動きまわらなくなりました。そのうちに寝たきりになり、介護生活に入りました。寝たきりになってからは、水と食べ物は私の手から与え、毎日のグルーミングも私が行いました。必要に応じて薬をあげたり傷の手当をしました。斜頸は身体の重心がずれるために、肢にかかる負担が大きくソアホックになりがちです。なのはっちもソアホックになり、寝たきりになってからはソアホックの悪化はないものの、床ずれを防ぐためにとても気をつかい、グルーミング時には皮膚の状態を丁寧に観察していました。必要に応じてクッションの位置を変えたり、やわらかくしたりしました。また体勢を変えることも、床ずれ予防には有効でした。
斜頸のうさぎ看護 お役立ちグッズリスト
(1)フリース
ローリングによるケージ内での怪我を防ぐために使用。洗い代え用が必要。
(2)クッション
ローリングによるケージ内での怪我を防ぐため、身体が倒れないよう支えるために使用。カバーが取り外せて洗濯できたり、丸洗いできるクッションがおすすめです。
(3)タオル
ローリングによるケージ内での怪我を防ぐために使用。
(4)U字クッション
身体が倒れないよう支えるために使用。うさぎの大きさによってサイズ検討が必要。ネザーランドドワーフぐらいなら、以下がおすすめ。
低反発 ネックピロー(Amazonリンク)
(5)すり鉢、すりこぎ
強制給餌のときに使用。100円ショップのもので十分です。
(6)シリンジ
強制給餌のときに使用。手に入らなければ、動物病院に相談してみてください。
(7)スポイト
水を飲ませるときに使用。小さなシリンジでもOK。薬局に売っています。ガラスのスポイトは危険なので、下の画像のようにプラスチック製にしましょう。
スポイト 3cc 10本(Amazonリンク)
(8)SUSUマット
寝たきりになったときの床材として使用。ウンチが毛の間に入るから良かったです。またおしっこもすばやく吸収し、おしりが濡れないので身体を清潔に保てました。排泄物の状態が見やすいので、淡い色がおすすめです。
SUSU バスマット 速乾 抗菌 36x50cm(Amazonリンク)
(9)赤ちゃん用綿棒
耳掃除のときに使用。赤ちゃん用の綿棒はサイズが小さいので、うさぎの耳を傷つけにくくやりやすいです。力を入れないよう、軽く拭く程度でOKです。取れない場合は動物病院へ。
PIPBABY ベビー 綿棒 200本入 2個パック(Amazonリンク)
(10)オイル
耳掃除のときに、綿棒につけて汚れを落としやすくしました。何もつけないよりは、汚れが落ちやすいです。無香料のオイルならよいと思います。
ジョンソン ベビーオイル 無香料 300mL(Amazonリンク)
(11)イソジン消毒薬
床ずれやソアホック、その他皮膚に炎症があったときに、10倍に薄めて使用。うがい薬と間違えないように。イソジンきず薬です。
イソジンきず薬 30mL(Amazonリンク)